映画の面白さを語るとき、役者やストーリーに加えて、物語の舞台となった“街”そのものも大きな魅力となっている作品がある。たとえば、オードリー・ヘップバーンが華麗な王女に扮した「ローマの休日」がそうであったように、またアラフォー世代の代表格である「SEX AND THE CITY」の主人公たちの住む場所がNYでなければならなかったように。そしてこの映画「Love Letter」もまた、舞台が小樽でなかったらこれほどまでに人々に愛されていなかったのではないだろうか。『拝啓、 藤井 樹 様。 お元気ですか? 私は元気です』 婚約者に先立たれてもなお彼を思い続ける女性が、すでに取り壊されてしまった彼の実家に手紙を書く。来るはずのない返事…のはずだったが、同姓同名の女性のもとに手紙が届き、やがて2人の不思議な交流が始まっていく。 渡辺博子と藤井樹。中山美穂が演ずる対照的な2人の女性がちょっとした好奇心から文通を始める。ひとりは恋人とどこかで繋がっていると信じ、また一方はどんなイタズラがやってきたのかといぶかしみながら。神戸で暮らす博子からの手紙を受け取った藤井樹が手紙について同僚と議論している場所が、小樽駅のほど近くにあるここ旧日本郵船(株)小樽支店だ。 |
近世ヨーロッパ復興様式で建てられた石造の重厚な外観が特徴の旧日本郵船(株)小樽支店は、1906(明治39)年に落成され日露国境画定会議も行われたという由緒ある建物。現在は重要文化財として一般に公開されているが、映画では藤井樹の働く場所である図書館として使われた。 「Undo “アンドゥー”」や「リリイ・シュシュのすべて」など独特の世界観を持つ岩井俊二監督がやわらかく繊細な映像で紡ぐのは、2人の女性の喪失と再生の旅。神戸、小樽、長野と今はもう存在しない男性“藤井樹”の足跡をたどるこの旅路で印象深いのは、やはり彼と樹が中学時代を過ごした小樽の風景だろう。 図書館の貸出カードに好きな子の名前を書いたこと、「答案用紙、返して」の一言が言えずに彼を待ち続けたこと、好きな子をバカにされて怒りをあらわにしたこと…。小樽の町は、そんな恋愛とは呼べない中学生の不器用で脆い恋をそっと包み込んでいく。 小樽市内のロケ地となった場所では、日本のみならずアジア(特に韓国)からも多くの観光客が訪れ、「Love Letter」の世界を楽しんでいるという。届くはずのない1通のラブレターがもたらす深い感動とともに、歴史的な建造物が立ち並ぶノスタルジックな街、小樽を散策してみてはいかがだろうか? |
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監督:岩井俊二 天国の恋人に向けて送った一通のラヴレターがきっかけで、埋もれていた二つの恋が浮き彫りになっていくラヴ・ストーリー。監督・脚本は今作が劇場用長編映画デビュー作となる「Undo “アンドゥー”」の岩井俊二。撮影は「夏の庭 The Friends」の篠田昇。主演は「波の数だけ抱きしめて」以来4年ぶりの映画出演となる中山美穂で、一人二役に挑戦して、ブルーリボン賞、報知映画賞、ヨコハマ映画祭、高崎映画祭などで主演女優賞を獲得した。共演は「NIGHT HEAD」の豊川悦司と、これが映画初出演となる酒井美紀、柏原崇ほか。 神戸に住む渡辺博子は、山で遭難した婚約者の藤井樹の三回忌の帰り道、彼の母・安代に誘われ、彼の中学時代の卒業アルバムを見せてもらう。忘れられない彼への思いから、そのアルバムに載っていた、彼が住んでいたという小樽の住所にあてもなく手紙を出す。すると数日後、来るはずのない返事が…。その手紙の主は、亡くなった婚約者の藤井樹と同姓同名で、彼と同級生だった、女性の藤井樹。やがて博子と樹の奇妙な文通が始まる…。 |
「Love Letter」
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