「ヤットセー、ヤットセー」小気味よい掛け声とリズミカルな鳴り物とともに、女たちがしなやかに、男たちは豪快に踊り歩いていく。400年以上の歴史を持つ阿波おどりは徳島の夏の風物詩。さだまさし原作の映画「眉山−びざん−」は、そんな阿波おどりの楽しさ、興奮をめいっぱい感じさせてくれる作品だ。 映画のタイトルにもなっている“眉山”とは、徳島市を一望できる山の名前である。古くは万葉集にも詠われたこの山は、なだらかな稜線が眉のように見えることからその名がつけられたという。映画ではこの眉山が見守る街を舞台に、末期がんに侵された母と娘の絆と恋が描かれていく。 親子という一番近い存在ながら、母と娘の関係はときに複雑だ。良き先輩・後輩でもあるがときにライバルにもなる存在。しかし、娘にとって母はあくまでも“母”であり、彼女が1人の女性としてどんな人生を送ってきたのかはあまり考えないかもしれない。松嶋菜々子演じる娘の咲子もまた、母の残りの人生があとわずかというのを前にして、初めて“龍子”という女性の生き方を知ることとなる。 |
曲がったことが嫌いで人情に厚いチャキチャキの江戸っ子の龍子は、まさに“粋”という言葉がぴったりの女性。この龍子を演じているのが、10年ぶりの映画出演となる宮本信子なのだが、その凛とした佇まいや周囲をパッと華やかにさせる笑顔はさすがの存在感である。 阿波おどりをじっくり堪能できるとして毎年多くの見物客で賑わう南内町演舞場は、そんな母の想いに気づいた咲子がある奇跡を起こす場所だ。毎年8月12日から15日まで開催される阿波おどりは、“踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々!”と歌われるように、踊り子と観客が一体となる徳島が一番熱い日。撮影は、そんな阿波おどりの熱気が残る翌日、14,200人のエキストラを集めて行われたという。中でも、阿呆連、ゑびす連、天水連といった有名連33連による総踊りなどは、実際の阿波おどりでも見ることができない貴重なシーンだ。 このエキストラの方々の圧巻のパフォーマンスをはじめ、徳島市では30,000人以上がボランティアとしてこの映画に関わったという。咲子と龍子が人形浄瑠璃を鑑賞した“阿波十兵衛屋敷”や、咲子と寺澤が歩いた“新町川水際公園”、父との思い出の“眉山の滝”など、徳島の人々の熱い思いを感じながら町を散策してみるのも楽しい。 |
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監督:犬童一心 国民的スタンダードナンバーを数多く生み出してきたシンガーソングライターのさだまさしが書き下ろした10万部を超えるベストセラー小説『眉山』の映画化。主人公の咲子は、数々のヒットドラマに主演している松嶋菜々子。咲子の心を優しく支える恋人、医師の寺澤には常に話題作に出演し、「解夏」でもさだまさしとタッグを組んだ大沢たかお。江戸っ子ならではの口跡のよさが鮮やかな母・龍子を演じるのは凛とした風格をみせる宮本信子。監督には人々に永く愛される恋愛映画を生み出し、日本映画界を牽引する存在となった犬童一心。壮大な阿波踊りのうねりの中で全てが浄化されるような見事なクライマックスシーンを創り上げている。 東京で旅行代理店に勤める咲子(松嶋菜々子)は、故郷の徳島で一人暮らす母・龍子(宮本信子)が入院したと聞いて、久しぶりに帰郷した。相変わらず気丈な母であったが、担当医よりその母が末期ガンだと知らされ咲子は愕然とする。相談も無く物事を進める身勝手な母、父のことを決して語らない母に、寂しさとわだかまりを抱えてきた咲子。そんな咲子は母を看病する中で、医師・寺澤(大沢たかお)と出会う。母という人間を受け入れられずに悩む咲子を寺澤は温かく包んでいく。そんな寺澤に咲子も自然と惹かれていくのであった…。 |
『眉山−びざん− (2枚組)』
・発売日:発売中・発売元:フジテレビジョン・東宝 ・販売元:東宝 ・価格:¥5,040(税込) |