いま、山形県の庄内地方が映画人たちから熱い視線を浴びている。日本海に面し、酒田市や鶴岡市を中心とする5市町で構成されたこの庄内地方は、『たそがれ清兵衛』や『蝉しぐれ』など、これまで多くの藤沢周平作品の舞台となってきたが、なかでも本年度のアカデミー賞で外国語映画賞を受賞した『おくりびと』の登場でひときわ注目を集めることとなった。 外国語映画賞の最有力候補と言われていたイスラエル映画『戦場でワルツを』や仏映画『クラス』を抑えての受賞となった滝田洋二郎監督の『おくりびと』。「今年のオスカーの番狂わせ」と映画関係者をはじめ世界の人々に衝撃を与えたこの作品は、図らずも故郷の山形で“納棺師”となった男が、仕事を通して生と死の尊さを再発見していく姿を、ユーモアを織り交ぜながら感動的に描いたものだ。 |
−年齢問わず、高給保証! 実質労働時間わずか。− −旅のお手伝い。NKエージェント!!− 長年の夢だったチェロ奏者になった途端にオーケストラが解散になり、職を失った大悟(本木雅弘)は、故郷の山形で職探し中にこんな求人広告を見つける。「旅のお手伝いって旅行代理店の仕事かな?」と彼はNKエージェントへ向かうが、実はそれは“旅のお手伝い”ではなく“安らかな旅立ちのお手伝い”。しかし、大悟は社長である佐々木(山崎努)の剣幕に押され、戸惑いながらも納棺師としての仕事を始めることとなる。 昭和元年ごろに建てられた旧割烹小幡は、大悟が恐る恐る訪れたNKエージェントの事務所として使われた。和風建築の本館と洋館の3階建てからなるこの割烹だが、ロケに使用されたのは洋館部分。現在では映画のヒットを機に、棺おけが立てかけられたNKエージェントの事務室や社長室のロケセットが再現され、映画の雰囲気がそのまま味わえる。 身寄りのない老婆、性同一性障害の青年、家族に温かく看取られた老人……納棺師として幾つもの死と向き合ううちに、大悟はやがてその意義を見出していくが、同時に人々の偏見も知ることとなる。妻に「けがらわしい」と言われ落ち込む大悟に、佐々木が訥々と語る印象的なシーンは3階の社長室で撮影された。炭火であぶったフグの白子をうまそうにすすりながら「これだってご遺体だよ。生き物は生き物を喰って生きているんだから」。生き物の“死”を受け入れてこそ成り立つ人間の“生”。その尊さ、素晴らしさを実感できる場面だろう。 慈しむように遺体を清めていく納棺の儀式はひたすら美しく、その所作の優美さに心を奪われる。そして日本の原点を感じさせる庄内地方の雄大な風景が、生と死と隣り合わせの世界で懸命に生きる私たちを今日も優しく見守ってくれているようだ。 |
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監督:滝田洋二郎 メガホンをとるのは『僕らはみんな生きている』『バッテリー』の滝田洋二郎。脚本には小山薫堂。人気TV番組「料理の鉄人」などの構成作家として活躍し、脚本を手がけたTVドラマ「東京ワンダーホテル」が大きな反響を捲き起こした彼の、初の映画脚本作品としても注目。そして主人公の心そのままに、チェロの音色で織りなす感動的な音楽を手がけるのは、名匠・久石譲。人生に迷いながらも成長していく新人納棺師・大悟を演じるのは本木雅弘。大悟の妻・美香を演じるのは広末涼子。そしてベテラン納棺師・佐々木を演じるのは、深みのある演技で圧倒的な存在感を放つ山ア努。美しい自然を四季の移ろいとともに叙情的に描き出す。第81回アカデミー賞外国語映画賞受賞作。 求人広告を手にNKエージェントを訪れた主人公・大悟(本木雅弘)は、社長の佐々木(山ア努)から思いもよらない業務内容を告げられる。それは【納棺(のうかん)】、遺体を棺に納める仕事だった。戸惑いながらも、妻の美香(広末涼子)には冠婚葬祭関係=結婚式場の仕事と偽り、納棺師(のうかんし)の見習いとして働き出す大悟。美人だと思ったらニューハーフだった青年、幼い娘を残して亡くなった母親、沢山のキスマークで送り出される大往生のおじいちゃん…。そこには、さまざまな境遇のお別れが待っていた。 |
『おくりびと』
・発売日:発売中・発売元:セディックインターナショナル/小学館 ・販売元:アミューズソフトエンタテインメント株式会社 ・価格:¥3,990(税込) ・(C)2008映画「おくりびと」製作委員会 |