「安くて旨いだけじゃやっていけない、それが大山」。商店街にも、一本入った路地裏にも“焼肉”の看板をいくつも発見できる。冒頭は、かつて取材した別の焼肉店オーナーの言葉。そんな場所で、半世紀を迎えたおそらく一番の古株だ。長く続けて来られた理由のひとつが、この店を愛する大勢の常連さん。小上がりのテーブルは、いつものホクホク笑顔で埋まっている。ほんのり甘めのタレをもみ込んだカルビを網に乗せれば、肉汁が炭火に当たって焦げた、なんとも言えない香気が立ち上る。嗚呼、子供の頃に夢中で白飯をかき込んだあの匂いだ。そこへピンクの公衆電話がジリッ、ジリリーン！　この店には今も昭和が残っている。

牛肉を煮込んだダシを使ってコク深く仕上げる。
ほどよい辛さで満腹でもするっと入る